研究概要 |
一般的に薬物等の感受性が成体と比べて極めて高い胎子,新生子期において内分泌攪乱化学物質がどれぐらいの濃度で,またどのような機序で神経系および生殖器系,内分泌系に影響を及ぼすのか,具体的基礎研究は少ない。そこで本研究では人工的なエストロゲン受容体(ER)結合型内分泌攪乱物質として最も力価の強いdiethylstilbestrol(DES)を代表とし,マウスの胎子,新生子期に曝露させ,生殖内分泌系にどのような影響を与えるかを組織学的,内分泌学的に検討し,その作用機構の一端を解明することを試みた。 本研究では,雄マウスに,scsame oilに溶解させた0.001〜100μgのDES(10μl)を3日齢の単回,3日齢から3日毎の反復,母マウスの膣栓確認後7日目からと出産後3日齢から3日毎の反復,対照群にはsesame oilのみを投与し,25日齢から84日齢(12週齢)の個体を実験に供した。生後単回DES10,100μg投与4週齢群,生後反復DES 1.0μg投与25日齢群,DES 10μg投与6週齢群,胎生期〜生後反復DES 10μg投与6週齢群で,精細管での核萎縮,細胞質内の空胞化および細胞間隙の増大が認められ,細胞密度が低下し,精祖細胞から精子細胞が減少し,精子は観察されなかった。BrdU取り込み実験により精細管の細胞の分化・増殖能抑制が認められた。免疫染色によるERα,Androgen Rcccptor(AR),StAR(steroidogenic acute rcgulatory protein)の検索では,陽性細胞数に顕著な差は認められなかったが,精巣の染色性がDES投与により,ARでは増強し,ERαおよびStARでは減弱した。内分泌学的検索の結果,対照群と比較して,下垂体中のFSH, LHの含量が明らかに減少し,下垂体機能の低下を示した。下垂体中のFSHの減少は,精巣中インヒビンも減少していることから視床下部性の機能低下を示唆した。 これらの結果により,生後単回投与では,DES10μg投与量までの曝露による障害が成長段階で回復し,生後反復投与では,DES 10μg以下の投与量でも同様の障害を受けるもののその障害は回復せず,胎生期〜生後反復投与では,致命的なダメージとなり,生殖器系の分化,発達が著しく阻害されることが示された。その作用機序は視床下部-下垂体性の機能低下が原因となり,精巣の分化・発達が障害されるものと考えられた.
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