最近絶縁性の環状分子であるシクロデキストリンから合成されたチューブ状分子、分子ナノチューブを代表的な可溶性導電性高分子であるポリアニリン(PANI)と溶液中で混合したところ、紐状の導電性高分子がチューブ状分子の空洞内に自発的に潜り込んだ超分子構造体いわば分子被覆導線が形成される現象を見出した。本研究では、この分子被覆導線を基板上の外部インターフェイス電極に配線した分子デバイスを作成し、外部インターフェイス電極間の電気特性の測定を行い、分子デバイスの評価をすることを目指した。 初年度は分子被覆導線の片側の端を基板上の電極の位置まで動かして、反対側の端を導電コートしたAFMカンチレバーで接触させ、基板上の電極とカンチレバーの間の抵抗を検出することで導電率を測定することを目指した。しかし、カンチレバーの導電コートの破損や、カンチレバーを分子被覆導線に強く押し付けると分子被覆導線が破壊することにより、再現性のある抵抗値を測定することができなかった。 そこで2年目は、Sio_2上に貴金属の対向電極(電極間距離500nm程度)を形成し、その間に分子被覆導線を配して、導電率を測定することを目指した。電極付き基板は完成し、基準物質としてのカーボンナノチューブが測定できるところまで確認された。しかし、電極-分子間の接触抵抗が100kΩ程度あると思われ、分子本来の導電率が測定できているかの検討を行っている。また、現在この基板を用いて分子被覆導線の導電率測定を進めているが、もし分子被覆導線の抵抗が接触抵抗よりも小さいときには、正確な抵抗値の見積もりが困難である。そこで、導電性高分子の両末端にチオール基をつけ、電極との接触抵抗の低減を目指して研究を進めている。 ドープした分子被覆導線は大きな導電性を示すことが期待され、分子デバイスの最重要部分である分子配線の有力な候補となるであろう。
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