本研究は、高温処理で発現する温度感受性(誘導性)のプロモーターを利用して外来遺伝子を植物体中で発現させ、植物の二次代謝の制御を行なおうとするものであり、タバコ野生種(Nicotiaca plumbaginifolia)をモデル植物に、またトウガラシ(Capsicum frutescens)を実用的な植物の代表として実験材料に取り上げて、研究を行なった。フェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)のcDNA(パセリ由来)に、シロイヌナズナの熱ショックタンパク質のプロモーターを結合させたキメラ遺伝子を導入したタバコの毛状根およびレポーター遺伝子であるβ-グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子を導入したものを用いて、熱ショックによる遺伝子発現を検討した。その結果、GUS遺伝子の導入されたタバコ毛状根では、40℃2時間の熱ショックでGUS活性が誘導され、この誘導性は3-5ヶ月の間安定であった。また、熱ショック後、6日目に再び熱ショックを行なってもGUS活性が誘導され、この系が安定して使用できることが分った。また、GUS遺伝子を導入したトウガラシ毛状根の場合は38-44℃、2時間の熱ショックではGUS活性がほとんど変化せず、さらに形質転換体を取得するなど検討が必要であると考えられた。しかしPAL遺伝子を導入したタバコ毛状根は熱ショック後、PAL活性がほとんど変化しないか逆に低下することが分った。これは外来性のPAL遺伝子発現の過程でコサプレッションが働いていると思われた。意図したPAL活性の上昇は見られなかったが、結果的に温度処理によってコサプレッションを利用したフェニルプロパノイド代謝の流れを変えることが可能であることがわかった。
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