研究概要 |
本研究では酵素反応を用いた新規なトレハロース誘導体の合成方法の開発とトレハラーゼ阻害を指標としたこれらの誘導体の殺虫剤ならびに抗真菌剤への応用の可能性を検討する。トレハロースを加水分解する酵素、トレハラーゼがトレハロースの加水分解量を調節している。したがって、昆虫の主要血糖であるトレハロースの加水分解を司る酵素トレハラーゼの活性の強弱により、昆虫の活動は大きな影響を受ける。そこで本年度は研究代表者が独自に自然界から単離した酵素、グルコース-3-脱水素酵素(G3DH)を用いて、新規なトレハロース誘導体の合成とその生理活性の検討を行った。G3DHは特異的に糖類の3位が酸化できる。そこで海洋細菌Halomonas sp.α-15株由来G3DHによる酵素反応の基質としてトレハロースを用いた酵素有機合成反応を行い生成物を精製回収し、構造決定を行ったところ、新規化合物である3,3'-ジケトトレハロースが合成されることが明らかとなった。本誘導体の酵素トレハラーゼの基質としての検討を行ったところ、同誘導体は豚腎由来あるいはカイコ由来のいずれのトレハラーゼ基質とならないことが明らかとなった。さらに、同誘導体のトレハラーゼ酵素阻害剤としての検討を行った。その結果、上記両トレハラーゼいずれに対しても、同誘導体濃度増加とともに、トレハラーゼ活性が減少し、この新規化合物が酵素阻害剤として機能することが示唆された。また、トレハラーゼはα-グルコシダーゼの一種として位置付けられるが、トレハラーゼ以外のα-グルコシダーゼに対しては同化合物は阻害活性を示さなかったことから、3,3'-ジケトトレハロースは新規なトレハラーゼ特異的な阻害剤であることが明らかとなった。阻害定数を求めたところ、豚腎由来あるいはカイコ由来トレハラーゼに対してそれぞれKi=0.2mM,Ki=0.6mMであり、阻害剤としての応用が期待される。
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