現在日本の化学産業は、生産量の多いバルク製品を対象とした産業から機能性製品やファインケミカル製品を対象とした産業に移行しつつある。これらファインケミカル製品等の製造に微生物等の生体触媒を用いることができれば、反応が特異的に進むため反応工程数の削減と副生成物の生成量の低減が計れる。一般の微生物は有機溶媒中などの特殊環境下では生育することができないが、申請者らが先に取得した有機溶媒耐性微生物は有機溶媒存在下で生育し、かつ有機溶媒に安定な酵素を分泌生産する。そこで、本研究では、有機溶媒存在下で有機溶媒耐性微生物を用いた物質転換システムの構築を目的とする。 本年度は、まず、P.aeruginosa LST-03株の有機溶媒耐性を検討し、有機溶媒存在下で培養した場合の酵素生産について検討した。P.aeruginosa LST-03株は、log P値が2.4以上の有機溶媒を添加した培養液で生育した。また、シクロヘキサンが存在し、酸素の供給が制限された条件下でも良好に生育するが、培養上清のリパーゼ活性は低く、リパーゼの分泌には酸素の供給が必要であることが示唆された。ジャーファーメンターで通気培養した場合、この菌株はシクロヘキサン存在下でも有機溶媒耐性リパーゼを分泌生産した。この菌株が産生するリパーゼは、シクロヘキサンが存在しない場合より存在する方が安定であるため、シクロヘキサンを添加して培養したときの培養上清のリパーゼ活性は、有機溶媒を添加せずに培養した場合に比べて高いレベルで持続した。
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