現在、日本の化学産業は、生産量の多いバルク製品を対象とした産業から機能性製品やファインケミカル製品を対象とした産業に移行しつつある。これらファインケミカル製品等の製造に微生物等の生体触媒を用いることができれば、反応が特異的に進むため反応工程数の削減と副生成物量の低減が計れる。一般の微生物は有機溶媒中などの特殊環境下では生育できないが、申請者らが先に取得した有機溶媒耐性微生物は有機溶媒存在下で成育し、かつ有機溶媒に安定な酵素を分泌生産するので、この微生物を用いれば、より簡便にしかも効率よく物質変換を行うことが可能になるものと思われる。そこで、本研究では、ガス-水溶液-有機溶媒の気液液3相系での有機溶媒耐性微生物を利用した発酵プロセスを開発するために必要な基礎的研究を行った。本研究で検討した項目は以下の通りである。 1.有機溶媒耐性微生物Pseudomonas aeruginosa LST-03株の有機溶媒存在下での生育と有機溶媒に安定な酵素の生産 2.有機溶媒耐性LST-03リパーゼの精製と諸性質 3.LST-03リパーゼ遺伝子のクローニングとシーケンス 4.LST-03株のLST-03リパーゼ以外のリパーゼ遺伝子のクローニングとシーケンス 5.通気培養槽での気液・液液間物質移動 6.通気培養槽での気液液間物質移動 7.天然栄養源を複数混合した培養液によるLST-03株の増殖特性 8.LST-03株の増殖特性とリパーゼ活性に及ぼす酸素、有機溶媒および消泡剤の影響 9.LST-03リパーゼによるトリオレインの加水分解反応 本研究をさらに発展させることによって有機溶媒耐性微生物を用いた高効率な発酵プロセスが開発でき、反応・分離工程数や副生成物量の少ない環境調和型物質生産プロセスの構築が可能になるものと期待できる。
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