今年度は、「天」「人」関係の基礎概念である「天」と「人」の形成について考察を深めた。天は周初以来の観念であるが、戦国時代になって諸子の思想家の手により哲学化され、観念内容が深まり豊かになった。つまり、旧来の天空・天意(上帝)の意味に加えて、理法、陰陽の自然の意味で使われるようになったのである。一方、人は孟子や荀子など儒者の手により、その意味が積極的な方向に高められた。つまり、人間社会の人倫や礼の価値を積極的に評価し、それらの価値を充足するかぎりにおいて人は人であり得るとの見解が提出されたのである。この人間社会の価値を充足する人を「人」と表記する。旧来の天は、孟子においても荀子においても背後に退けられた。孟子において「人」は理法としての新たな天と等値であるとされ、荀子において「人」は旧来の天を批判して立てられた陰陽の自然の天と対置されることとなった。その後、この高められた観念の「人」を根拠づけるため、天に新たな意義[「人」の根拠]を要請するという思想史上の一大変化が発生した。この新たな意義を要請された天を「天」と表記する。この「天」は天空・天意・理法・陰陽の自然の意味をすべて含み、かつ人倫や礼の根拠である。故に、ここで言う「天」「人」の関係とは、戦国末以降になって始めて成立する性質のものである。以上の考察の一端は、平成12年10月に行われた日本中国学会の学術大会で「『人』についての考察-中国における『天』『人』関係解明の基礎作業として-」と題して口頭発表し、数人の方から参考になる意見を得た。これら意見を次年度以降の研究に反映させるとともに、さらに自己の考察を深めていきたい。
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