韓国愛国啓蒙期の外国事情書・英雄伝類の韓国語翻訳書を、明治期の出版文化との関連で考察しようとする今年度の研究では、次のような作業を行った。 (1)「開化期文学叢書」所収の32種の翻訳書の元本確認作業を行った。分布を見ると、日本図書の翻訳が多い。日本の場合、戦争史と偉人伝が中心になっているが、特に、西洋近代の戦争史と偉人伝は、中国の図書からの翻訳もあり、これは当時の韓国人による韓国の偉人伝の出版とともに、危機に直面した当時知的状況を反映したものと思われる。 (2)翻訳書の出版元と販売店の状況をつうじて、当時の出版社と出版物流通の状況把握を行った。一方、広告のなかには、日本の教育参考書や教養書の翻訳書もあり、当時韓国内の日本人社会の出版状況をも含めて、より幅広い調査の必要性を感じる。 (3)東京大学、早稲田大学、国学院大學の図書館で、翻訳書の元本となった日本図書の調査を行った。資料のコピーは、まだ完了していないので、この作業は継続中である。 (4)明治期の出版事情調査の一環として、博文館をはじめとしたおもな出版社の出版物の状況把握を行った。その「万国戦史」シリーズの一部が翻訳されている。 (5)韓国語翻訳書のリストを作成し、その原本調査と資料収集を行った。教科書や教科学習参考書の場合は、その元本の確認が難しく、広告に書名がある加藤弘之の『強者の権利競争論』のように、図書原本がいまだ確認されていないものが多い。来年度は、今年度の作業に続いて、当時韓国と日本・中国との図書の流通状況や、翻訳を担った人々の個人調査と翻訳書の内容分析、そして学会発表を行い、研究を深めていきたい。なお、今年度の補助金は、主に関係図書購入に充てた。
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