本研究は近代天文学の発達により生まれた宇宙観が、近代思想の形成にどのような影響を与えたかを、トマス・リードの哲学を中心に、社会に関する知の集成でもあった18世紀のスコットランド諸大学での道徳哲学講義の変貌を通じて明らかにすることをめざしている。本年度は一度の在外研究(アバディーン大学等)を含む、スコットランド諸大学所蔵の講義ノートの収集と研究、および国内の諸資料の研究および収集に努めるとともに、第二回国際リードシンポジウムにおいてリード経済理論と科学方法論の関係に関する研究発表を行い、18世紀スコットランド哲学についての研究ネットワーク形成をはかった。 その結果、(1)宇宙の恒常的な秩序を論証するとともに、神の作用因としての積極的なそれへの介入を主張したニュートン物理学が、イギリス独特の神観念と経験論哲学、科学方法論の共存を可能にし、リード哲学の基礎的構成を形作るとともに、キリスト教的な枠組みの中で道徳を科学的に研究することを可能にしたこと(2)プトレマイオス的な地球中心の宇宙観が崩壊した結果成立した、多数の恒星が存在する宇宙像が、カルヴィニズムを越えた普遍主義的な世界観を基礎づけたこと(3)以上が人間の道徳的進歩の観念に基づく、世俗的な社会の内在的な運動原理の研究を保証し、リードなどのスコットランド哲学の形成を導いたことが明らかになった。(4)また研究ネットワークについては、アバディーン大学リードプロジェクトの企画に参加し、次年度以後の研究を進めることとなった。なお本研究は次年度も継続して行うが、以上の成果は本年度に出版した著書『ニュートン主義とスコットランド啓蒙-不完全な機械の喩』(名古屋大学出版会)で公表した。
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