本研究の目的は、メディア時代が成熟した後の、いわばポストメディア論の中での芸術作品のあり方について考察することであった。昨今の飛躍的な科学技術の進歩に伴い、従来の研究の範疇とされてきた芸術作品という概念も、大きな変化を被り、今や他分野と融合しつつ新たな文化論の中で語られることが多い。コンピューターを利用しながら、画面上のデジタルイメージと複合的かつ有機的に一体化して新たな身体意識を獲得させるような作品もあれば、新たに獲得されたヴァーチャル・リアリティにおいて、あたかも時間と空間とを偶然という束縛から開放するような作品もある。このようにして次々と生み出され続ける、様々なメディアを用いた現代美術作品の様相を探り、国内外の状況も踏まえつつ、電子時代における芸術作品についての理論的分析を試みた。サイバースペースにおけるメディアアートの行方をたどることによって、従来の理論では把握しきれなかった現代美術の在り方を理論づけることが可能となる。具体的には、メディア理論の分析を行うと共に、国内では東京のインターコミュニケーションセンターや東京都現代美術館、広島市現代美術館において作品の調査を行い、また海外ではワルシャワの現代美術センター、ロンドンのテート・モダン、ソウルの国立現代美術館などで作品と作家について広く調査を行った。この成果の一部は既に韓国国立現代美術館(ソウル)と国立国際美術館(大阪)で平成14年に開催された『いま、話そう-日韓現代美術展-』企画及び寄稿「他者理解について-日韓現代美術展に寄せて-」(前掲図録pp.30-55)において発揮されており、また更に、平成16年秋の開催を目指して現在準備中の特別展『中欧現代美術展(仮)』の企画にも生かされる予定である。
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