研究概要 |
まず,幻覚についての心理学的研究をレビューし詳細な文献研究をおこなった。その結果わかったのは,ほとんどが幻視の研究であり,幻聴や体感幻覚についての研究は少ないこと,逸話の紹介・収集あるいは単なる体験率を調べるだけに終わっており,健常者の幻覚はどのようなメカニズムでおこるのか,知覚・思考・記憶・夢などの幻覚類縁の現象との異同は何か,病的な幻覚とどのような異同があるのか,などについての考察がないことであった。そこで,健常者について幻聴を中心とする幻覚体験を調べる質問紙を作成し,どのくらいの割合の健常者が幻聴を体験しているのか調べ,また,知覚・思考・記憶などの表象活動との関連を調べた。幻聴様体験や表象活動などの現象を17個のカテゴリーにまとめ,65項目からなる幻聴様体験質問紙(Auditory-Hallucination-like Experiences Scale)を開発した。大学生168名を対象に調査をおこなった結果,ヒアリングボイス体験(幻聴体験)は約30%,テレパシー体験は約45%の体験率を得た。こうした病理性の強い現象の体験率が高いことは注目される。幻聴様体験がどのような表象体験から発生するかを考えるために,正準相関分析やパス解析をおこなった結果,ヒアリングボイス体験は聴覚の変調や夢と関係が深く,一方,テレパシー体験は聴覚記憶や内言的思考活動と関係が深いことがわかった。ここから,ヒアリングボイス体験とテレパシー体験では,起源となる表象活動が異なることが示唆された。この成果は国際心理学会議で報告し,また,海外の幻覚・妄想の研究者と情報交換をおこない,協同研究を企画した。多次元式のアセスメントや面接法などを用いて,異常体験の発生メカニズムをさらに検討することが今後の課題である。
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