本年度研究実施計画は大きく分けて1.教育言説のテクスト分析、2教育相談での語りに関する分析、3.語り分析の方法論の開発という3つから構成されていた。本年度の研究実績は次の通りである。 1.については、大正自由教育期から戦前・戦後の日本における教育言説に一つの流れをつくった教育運動・実践家兼思想家として、玉川学園を創設した小原國芳を取り上げ、その一連のテクスト分析を進めた。それは、教育を介した社会変革を約束するような教育至上原理が、小原のどのようなレトリックによって、多くの教育関係者を納得させていったかについて、そのテクストにみる様々な説得技法の分析を通して明らかにするものであった。そして、彼の語りにみる教育思想の古典からの引用方法、教育や子どもを語るためのメタファーの効果的な使用法、さらに自らの教育運動や実践の意義を語るための回想型語りの構造を解明することができた。また、皇は教育基本法にみられるレトリックについても分析を加え、教育詩学の一領域としての可能性について実証した。 2.については、教育臨床としての教育相談における臨床の知の構造を、これまでの臨床経験を通して検証し、皇は教育学における臨床知の所在と役割について、また鈴木は、教育思想における臨床知伝承の可能性と限界という観点から、それぞれ9月に開催された教育思想史学会大会の臨床知をめぐるシンポジウムにおいて報告者として報告し討議することができた。これらは学会誌『近代教育フォーラム』に掲載予定である。 3.については、語り分析の方法論として、ガダマーら解釈学の方法やメタファーの働きに着目したリクールの方法と、デリダにみられるようなポスト構造主義的な語り分析との方法論をめぐる論議を基礎にしながら、教育詩学としての方法論樹立の可能性について検討し、「教育詩学探究」という題名の論文にまとめた。
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