本年度研究実施計画は大きく分けて、1.教育言説のテクスト分析、2.教育相談での語りに関する分析、3.語り分析の方法論の開発という3つから構成されていた。本年度の研究実績は次の通りである。 1については、前年度に引き続き玉川学園の創設者であり大正期以降、戦前・戦後まで日本における教育をめぐる言説を主導してきた一人ともいわれる小原国芳を取り上げ、テクスト分析を行った。本年度は特に、その著作のみならず講演、講義など音声や映像についての語り分析を進めた。小原の語りに特有の比楡をはじめとする文彩や筋の展開技法、さらに声の抑揚など様々な観点からの分析を通して、教育に固有とも推測される説得語りのもつ伝達の力について、その特質を明らかにした。その成果については皇が教育哲学会で発表した。2については、教育臨床としての教育相談における臨床知の構造を、これまでの臨床経験を通して検証し、教育における臨床知の働きやその伝承可能性について、皇および鈴木が学会誌に成果を発表した。3については、語り分析の方法論として、前年度に引き続き西欧における解釈学やレトリックの思想系譜を検討するとともに、三木清などをはじめとする京都学派における言説構成の技法や、野口整体の野口晴哉など同時代の東洋医学思想や医療における養生思想を対象とした語りの技法等を検討することを通して、「教育詩学」の方法論としての可能性について、学会コロキウムで報告した。その報告は次号の学会誌に掲載予定である。
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