平成13年度はイタリアとエジプトにおいて野外調査を行なった。また、国際日本文化研究センターにおいては、タロおよびその近縁種について、葉緑体DNAの変異についての調査を開始した。 1.野外調査の結集(field research) イタリアのローマは主として観葉植物としてのタロ科植物の北方限界となっている。タロはイタリアにおいては観葉植物として、必ずしも一般的ではないが、シシリーを中心に南イタリアでは、公共の庭園や歴史的な史跡において活用されている。イタリアではタロは食用植物としては栽培されていない。これと対照をなすのが、タロが食用植物として広く栽培されているエジプトである。タロはエジプトにおいて、夏季における灌漑農耕によって栽培されており、その範囲はナイル河およびナイルデルタの各地域である。栽培されたタロは家庭料理の材料として都市部において一般的に販売されている。 タロは東地中海地方における古くからの作物であり、少なくとも1000年から2000年におよぶ歴史をもっている。現在のエジプト人はタロを古代からのもしくは伝統的な作物として認識している。その一方で、王朝時代、すなわち2000年前のエジプトにはタロが存在していないことが実証的にしめされている。キプロスにおける状況と同構に、イタリアおよびエジプトにおけるタロの現在の分布は、20世紀における水の供給、土地の所有制、食物生産における変化のために、以前よりもより限定されたものとなっている可能性が高い。 2.実験的研究の成果(lab. work) 葉緑体ゲノム中の200塩基対の比較的短いDNA配列の分析を行った.この分析によって、タロ(C. esculenta)と他のColocasiaおよび他の属との分類が可能であった。今後、分析数を増やし、新たな実験結果を加えたものを論文として成果発表する予定である。この分析システムを確立することによって、タロや他の植物を対象にした、食物調理システムや貯蔵方法に関する民族考古学的調査が可能となることが期待される。
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