本研究課題は、人間の身体への欲望ともいうべき痩身願望、眼に見える「美」に向けた身体加工の歴史を人類史的に考えていくための予備的な研究であるが、その際、問題を捉える道筋それ事態をまずは開拓していくことが求められている。 そこで、本年度はまず手始めに、近年さかんになってきた「ダイエット」をめぐる出版物や議論について文献調査を行い、これをもとに必要な書物をピックアップする作業を行った。また研究者の専門との関わりで海外調査を行い、関連文献を調査した。前者の調査において必要と判断された書籍類は来年度の予算からの購入を予定している。また、当初の予定通り、データ処理に必要なコンピューター等の機器を購入し、活用することができた。後者については、筆者のこれまでの専門であるフランスの地方都市を拠点に、現地の歴史的な文脈にも視野を届かせつつ、過去の身体観を捉える手がかりとして近世期の医学・産科学に関わる動き、医学者たちの行動と実践を調査し、また関連書籍の探索を行った。 今年度の調査研究から明らかになったのは、以下のことである。(1)人間が身体を「装飾する」だけではなく、物理的に「加工する」「加工しうる」という発想を抱くようになるのは現代になってからのものではなく、近世以降発展してきた近代医学の考え方の中にすでに埋め込まれている。(2)医学的な身体観は、15〜16世紀以降、ギリシャ・ローマの古代医学に強く影響を受けつつも、17世紀〜18世紀に大きな変動を経験していく。(3)その際、この時代に、diete(養生)という言葉も徐々に変質していくことを余儀なくされた。精神による肉体への闘いが始まるのである。 これらについては、次年度にさらに探求を行い、文明史的な視野での比較の可能性を模索する。
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