平成12年度は主に他動詞を対象とし、同じ意味領域を担う日英の動詞の基本的意味と比喩的意味の広がりの違いを研究した。その結果、以下の成果が得られた: 1、語彙的・意味的に関連のある一項動詞と二項動詞の対は多く知られているが、日本語のアゲルには、語彙的・意味的に関連のある二項動詞(例「手をアゲル」)と三項動詞(例「荷物を二階にアゲル」)がある; 2、日本語のサゲルには、継続動詞のサゲル(例「絵の位置を少しサゲル」)と第四種動詞のサゲル(例「肩から大きな袋をサゲテいる」)の、語彙的・意味的に関連はあるが別の二つの動詞がある; 3、日本語のオトスには、「重力に逆らって支えていたものを支えるのをやめる」という意味側面があり、このことがオトスの比喩的意味の派生に関わっていて、そのことから意味領域で重なる部分のあるサゲルの比喩的意味との違いを説明できる; 4、日本語の他動詞アケルの派生的意味のひとつに「容器を空にする」というものがあり、この意味でアケルが使われた場合目的語は容器(「グラスをアケル」)でも内容物(「ビールをアケル」)でもありうるが、対応する自動詞アクでは、主語は容器でしかありえない(「グラスがアク」、「×ビールがアク」); 5、日本語のヒラクと英語のopenどちらにおいても、「初めて」という意味要素を持つ比喩的意味がある; 6、日本語のアケルには「予定のない状態にする」という派生的意味があり、英語のopenにはないが、英語の形容詞openにはこの意味がある(Remember to leave Friday open)。 これらの成果は他動詞と自動詞の関係、動詞と形容詞の関係などにも示唆を与えるが、特に(3)は、以前研究者が分析したナガスの派生的意味においてと同様、人間がどの程度の労力を用いているかということが意味の派生に大きく関わっている、つまり人間の主観が意味の派生に関わっていることを示して興味深い。
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