二言語における単語の意味を比較した場合、概ね同じ意味領域を占め、互いの訳語として想起されるペアもあれば、一方の言語において非常に大きな意味領域を占め、もう一方の言語に訳す場合に多種の訳し分けが必要な語もある。本研究では、前者の例として主に上下への移動を示す語群、後者の例として日本語のツケル・ツク・ダス・デルを分析の対象とした。その結果、次のような知見が得られた。 1.項構造の違いを丁寧に見てゆき、項構造の違う用法を別の語とすることにより、語の意味をより正確に記述することが可能となる。 2.日本語の「〜をツケル」という表現が、英語では一動詞であらわされる場合が多くある(「名前をツケル」=nameなど)。このことは、ツケルという動詞の意味がある意味で「希薄」であることを示すと同時に、日英語における意味のコード化の方法に違いがあることを示す。 3.今回分析の対象とした語の派生的意味の中には、「労力を必要とするか否か」を要素とするものがいくつか見られた。認知言語学では、意味を人間中心にとらえることを提唱しているが、この事実はこの主張を裏付けるものとして興味深い。 4.述語には、行為や状態でなく「存在・出現」をあらわすために用いられるものがある。「台所にゴキブリがデタ」「おばけがデタ!」におけるデルが一つの例である。通常、自動詞がもつ意味に対応する意味が、語彙的に関連のある他動詞にあるものだが、「存在・出現」には使役者や原因が存在するとは意識されないので、この意味に対応する意味はダスにはない。
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