本年度では、つぎの理論、実態把握、法的視点3つの面から研究を進めた。 (1)理論的研究として、わが国の養子制度に関する文献や理論の展開と成果をフォローして、法学に適用可能な理論を検討した。また、"養子先進国"であるアメリカ合衆国での文献やデーターを収集し、検討した。これらを基にして、養子縁組やその選択面での法的主体の合理的選好と意思決定のあり方を研究した。合理的選択行動一般については、広く研究と適用が存在するが、本年度はとくに家族領域での応用の可能性を模索した。 (2)つぎに、養子行動の分析には実態的なデーターが必要であるが、児童相談所、民間の斡旋団体・個人および産科医師、家庭裁判所、また養親・養家族などへの調査とインタビューを行った。とくに誰が家族の一員であるかの視点から、養う親・家族の側の意思決定や行動を聴き取ろうとした。とくに各人の家族のイメージの幅は多様で広いことが認識された。これを基にして、多様な要因が介在する親子関係の形成という場面で人々がどのような行動をとるかの実態的分析を行った。 (3)さらに、法学的視点からの研究を行った。上記(1)(2)の研究および調査から、とくに家族問題や養親子関係の形成においては、伝統的に非合理的行動が対象となると考えられてきた側面があるため、当事者の養子縁組における行動様式や意識を考慮する必要があった。上記(1)(2)での理論的・実証的研究と検討の結果得られる結論と(3)において得られた法的検討結果とを考慮に入れて、研究をさらに精緻化する必要がある。
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