1 本年度の第一の研究目的(日米「倒産企業への投資」の歴史と現状の調査)については、日米での実態調査の結果等により次の知見を得た。 (1)「倒産企業への投資」は、1930年代の大恐慌時代に誕生し、その後鉄道会社等の更生事件等において発展をみ、さらに80年代にいたってブームを迎えた。しかし、その後の競争激化および90年代後半の好景気によって、ビジネスの範囲は縮小した。 (2)このような本国における市場の飽和状態を背景に、アメリカの外資系ファンドがわが国の不良債権市場に流れ込んできた。しかし、わが国では、流通市場が十分に発達していないために、転売が難しく、最近は外資ファンドの投資意欲が減退しているとされる。 (3)最新の情報によれば、アメリカでは、景気の減速により経営危機に陥る多くの会社が出てきており、今後再び倒産企業への投資が活発になる可能性がある。他方、わが国では、金融庁が、銀行貸付不良債権の直接償却のため、その流通市場を整備しようとするなど、新しい展開がみられる。 2 他方、第二の研究目的(「倒産企業の投資」をめぐる法的問題点)については、主要な論点として、(1)破綻会社に対する売買の前提としての会社の経営状況に関する情報の取得が証券法上の詐欺(インサイダー取引を含む)にあたる場合があるか、(2)破綻後にディスカウント価格で債権を取得した債権譲受人の倒産手続上の地位(米国判例には、議決権を否定したり、当該債権の劣後化を認めた例もある)、(3)債権者の名義変更の手続問題(裁判所の介入の方法・程度)などがある。 次年度は、以上の成果を参考にして、わが国でいかなるポリシーの下で、倒産企業への投資についてどのような法的規律をすべきかを具体的に検討していく予定である。
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