本研究は、高齢社会(福祉社会)と生涯学習社会の到来という時代の変化のなかで、従来は教育と福祉のそれぞれの領域として峻別されてきたものを一体的にとらえ、人権と法制度の面において教育福祉権と教育福祉法制という新たな領域を形成できるかについて、学校図書館と患者図書館を素材として試論を試みるものである。 初年度の本年度は、実態調査を主として行なった。調査は、1)高齢と過疎の進んでいる青森県の学校図書館の実態調査、2)日本の病院・患者図書館の状況調査、3)図書館先進国としてのオーストラリアの病院患者図書館の実態調査、の3種のものを実施した。1)については『青森の学校図書館』(2001年3月)としてまとめられている。全国的には千葉県市川市のように、地域に密着した学校図書館もあるが、青森県においては教育人権保障は無論のこと、福祉的な視点の欠落は顕著である。もっとも、拠点的にではあるが、青森市立篠田小学校のように、養護学級において図書館を利用した教育を実践している学校もあった。2)は、病院・患者図書館4館の訪問調査と文献調査を行なった。日本では、スタッフのための病院図書館すら充実しておらず、患者図書館の整備は理解ある職員やボランティアによって支えられている。そのため、すべての患者がその恩恵に浴すことはできず、患者の学習権としても、また心の癒しという福祉的な必要からも、大きな格差が生じている。また、患者図書館の概念も曖昧で、制度の整備のためには、まずその概念を明確にする必要がある。3)は日本の状況を検討するときの指標をうるために実施した。オーストラリア調査からは、予算の逼迫が患者図書館を圧迫しているものの、インターネットの利用でその不足を補おうとしていることがわかり、日本の教育福祉領域におけるIT化の示唆を得た。次年度は、学校図書館と患者図書館を、地域の中で理論統合できる可能性を考察する。
|