本研究の主要な成果は以下の2点である。 第一に、国家公用語政策が国民形成ひいては国民統合の成否に関わるのは、次のふたつの条件が存在する場合であることを明らかにした。 ひとつの条件は、国内に複数の言語集団あるいは方言集団が存在することである。 他のひとつの条件は、国内諸集団関に既存の共通言語(リンガ・フランカ)が存在しないことである。 このふたつの条件が存在するとき、国家公用語政策が政治的経済的資源へのアクセスを左右することにより、特定の集団に有利に、他の集団に不利に働くことにより、国内集団化の対立・紛争の要因となり、国際形成、国民統合の破綻・挫折に至る。エチオピアにおけるアムハラ語の公用語化などがその典型である。逆に多くのアフリカ諸国における旧宗主国言語の公用語としての採用が、他の要因はべつとしてそれ自体としては国民形成の阻害要因とならなかったのは、言語集団間の優位劣位に影響しなかったからである。本研究においては、公用語政策分析の前提として、言語と国内言語集団の階層化と序列化の実態に特に焦点を当てたのはこの理由からである。 第二に、本研究においては、国家公用語の表記システム、文字システムの選択も公用語政策が国民形成の成否に影響する重要な要因であることを明らかにした。蓋し、国家公用語が書き言葉であることを要請されるからである。言語の選択のみならず、その表記システムの選択も国内諸集団の利害とアイデンティティと深く結びついているからである。
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