本年度における研究実績の概要は次のとおりである。 1.公的年金を民営化しようとすると、いわゆる「二重の負担」が発生する。 2.この「二重の負担」を比較的スムーズに処理した例は今のところ2つしかない。第1はチリであり、国家財政の大幅黒字という幸運に恵まれたため、その黒字分を「二重の負担」解消のために充当することができた。第2はスウェーデンであり、公的年金を給付建てから掛金建てへ変更する一方、公的年金の財政は主として賦課方式で運営していくという新機軸によるものである。 3.日本の国家財政は大幅な赤字を抱えているので、チリ方式を採用することはできない。また日本でスウェーデン方式(掛金建てへの切りかえ)を採用すると、現在の年金受給者を含めて、かなりの年金給付カットをせざるをえない(スウェーデンより人口高齢化のスピードが速いからである)。そのことに国民多数派の政治的協力が得られるとは思えない。 4.したがって日本は日本独自の第3の道を模索しながら、この「二重の負担」問題に取りくむ必要がある。そのさい、民間部門の高貯蓄率に着目し、貯蓄の組み替え(老後貯蓄への重点移動)を促す一方、公的負担の引き上げをできるかぎり抑制する形が、有力な選択肢の1つとなるだろう。その内容の具体化は次年度に行う予定である。
|