研究概要 |
本年度は次のことについて研究した。 保型形式とは、上半平面上の関数(または微分形式)でSL(2,Z)(または適当な部分群)で不変なものである。上半平面上のSL(2,R)-不変なラプラシアンは保型形式の空間に作用するので、不変ラプラシアンの固有関数を考えることが適当である。不変なラプラシアンは、上半平面の境界、すなわち実軸上で0となり、退化するが、境界の法線方向にregular singularであることが知られている。法線方向にregular singularであることから、固有関数の境界値が定義される(大島・柏原)。境界値をとることによって境界(=円周)上の特異性が高い関数、超関数が定義される。境界値としてあらわれる超関数はSL(2,Z)不変である。今回の研究で問題となったのは、境界値となる超関数がどのようなものであり、また新しい保型形式の構成を考えることであった。保型形式の境界値については次の事実が明らかになった。 境界値と跡公式の関係 境界の上の不変超関数のもっとも簡単な作り方は、ある実数を台とするディラックのデルタ関数を考え、群の上で和をとることである。実数によってはデルタ関数の和は超関数の意味でも収束しない。収束するのは、実数がたかだか二次の無理数であるときに限ることがわかった。この事実は、群GL(2)に対する跡公式との関連を考えることによって導かれる。 境界上の不変関数の収束と連分数展開 上で述べた不変超関数の構成において、台となる実数に制限がついた。二次の無理数である、という制限は連分数展開をおこなったときに、近似がもっとも非効率的になるのが二次の無理数の場合であることに対応している。つまり、デルタ関数の無限和を考えるときに、デルタ関数同士が「くっつきすぎる」と収束しなくなるのである。 高次元化とミンコフスキーの結果の解釈 跡公式との関連に導かれて、三次の無理数とGL(3)の上の保型形式、跡公式との関連を考察した。三次の無理数の展開はミンコフスキーによっても考察されている(Acta Math. vol 26)。ミンコフスキーの場合には境界として一番退化した射影平面を考察しているために決定的な結果がでていない。この場合も、regular singularな方程式の境界値を考察する、という立場からは旗多様体を考察する必要が生じる。この場合についても現在結果をまとめている。
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