研究概要 |
本研究の目的は,調和写像の無限遠境界値問題を一般の負曲率等質リーマン多様体に対して研究することである.このような空間の中で,カルノー群とよばれる巾零リー群の1次元可解拡大として得られる「カルノー空間」は,対称空間の一般化として重要なカテゴリーをなす.本研究では,このカルノー空間のカテゴリーにおいて,理想境界として現れる巾零リー群上の幾何学・解析学と,内部領域として現れる可解リー群上の幾何学・解析学との相互作関係を,「調和写像の無限遠境界値問題」を通して明らかにすることを第一目標としている. そのためには,解として得られる調和写像の理想境界の近傍での正則性(微分可能性)を詳しく調べる必要があるが,この部分の研究については,まだ具体的な成果は得られていない. しかし,特別な場合,すなわち複素双曲型空間形から双曲型空間形への調和写像に対する無限遠境界値問題に対して,研究分担者・上野は,「複素双曲型空間形から双曲型空間形への固有な調和写像で,無限遠境界まで連続的可能性をもって延びるものは存在しない」ことを証明し,また無限遠境界までの微分可能性のオーダーを弱めるとこの主張が成立しないことを具体例で示した.この結果は,無限遠理想境界の近傍での調和写像の正則性が大変複雑な問題であることを意味している. 上野はこの結果を,香港で開催された香港数学会とアメリカ数学会の合同研究集会で,招待講演として発表した. カルノー空間の理想境界上に,カルノー群の次数付き巾零リー群としての構造から誘導される幾何構造の微分幾何的性質の研究については,まだ緒についたばかりの段階である.
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