研究概要 |
(1)理論的側面の進展チュー空間理論と同様の方向で研究を進めている2学派の研究--米国のバーワイズによる情報流の研究、と独国ダルムシュタット大学の形式概念解析研究--について調査した。さらに、後者の中心的研究者の一人のガンター教授と共同研究を行った結果、複数定義されるチュー空間のテンソル積概念の間の関係が明確になるとともに、チュー空間の間のBondと呼ばれる準同型を射とすることにより、チュー空間がSlat-enriched圏となること(2対象間の射全体が上半束となる)が明らかになった。 (2)応用面の準備状況(i)半側空間無視(USN)に関するサーベイ。脳の非侵襲測定技術の進展で、USNに関するデータの質が飛躍的に改善されているが、言語的説明での説が大半であり、障害の本質とその機序に関して意見が分かれている。数理的説明としては、種々の視覚の神経回路網モデルを用いた説明が試みられているが、半側空間無視のある症状の「再現」に成功しているMozer,M.C.等の実験が注目される。しかし、数学的構造を伴ったモデルの提案はこれまでのところないように思われる。(ii)チュー空間理論の適用レベルの多様性についての予備的考察:神経回路網レベルでの適用と概念レベルでの適用との両極がある。前者については、二層型のリカレント網で一層の活動度に応じて他層の閾を高めるものはチュー空間の動作を模倣するものとなるが、この閾の調整法を変化させることによりチュー空間の概念自身が修正される極端な場合としてことがわかった。後者については、非単調推論が自然に組み込まれている点で実際の推論についての有効な分析法が見いだされる可能性がでてきている。(iii)計算機実験の準備。チュー空間の変形による概念束の変化が観察できるプログラムを試験的に作成した。
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