研究概要 |
Hilbert空間上の作用素論・作用素環論およびそれらの非可換確率論への応用を研究している.近年D.Voiculescuが開拓した自由確率論は,非可換確率論の一つとして大きな発展を遂げている.これに関連して,ランダム行列に対する漸近的自由独立性や大偏差原理について研究した.また,作用素(特に行列)のノルムやトレースに関する不等式についても研究した.最近の成果として, (1)自由確率論では,ランダム行列が自由確率変数の(漸近的)モデルとして重要な役割を果たしている.D.Petz氏との共同研究で,ランダム・ユニタリ行列の標本固有値分布に対する大偏差原理を示した.これのレイト関数は,単位円周上の自由エントロピー(2重対数積分の負符号)を主要項にもつ.また,ランダム行列に対するVoiculescuの漸近的自由独立性が,平均収束よりも強い概収束の意味で成立することを証明した. (2)安藤毅,大久保和義と共同研究で,2つの半正定値行列の正数ベキの多重積に対するトレース不等式を対数マジョリゼーションの方法を用いて考察した.例えば,A,Bが半正定値行列でp_i,q_i【greater than or equal】0がP_1+…+p_K=q_1+…+q_K=1を満たすとき,トレース不等式|Tr(A^<p1>B^<q1>A^<p2>B^<q2>…A^<pK>B^<qK>)|【less than or equal】Tr(AB)をp_i,q_iに対する付加的な仮定の下で証明した. (3)半正定値行列A_1,...,A_nを変数とするいくつかの多変数関数F(A_1,...,A_n)に対して,そのトレースがA_1,...,A_nについて同時凹関数となることを,Pick関数を使うEpsteinの方法を改良することにより証明した.さらに,Hadamard積や作用素平均を含むトレース関数についても考察した.
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