研究概要 |
波動の散乱現象の研究を,解の漸近挙動を調べる順問題,漸近挙動から媒質を推測する逆問題の2つの観点から行った. 1.今年度の研究成果.3体Schrodinger方程式の定常解の無限遠での漸近展開に関する定理を得た.本質的な進歩は3体問題における一般化されたFourier変換の構成と,レゾルベントの無限遠における漸近展開をすべての方向に対して同時に行えるようになったことである.これにより無限遠においての減少度に制限を与えた3体Schrodinger方程式の解を一般化されたFourier変換の像として特徴づけることができる。この方法はSchrodinger方程式のみならず古典物理学の多重チャネル散乱問題にも適用可能である.特に半空間での弾性波動方程式においてはRayleigh波を解の漸近挙動から導き出すことができる. 2.成果の発表.3体Schrodinger方程式に関する研究成果をEdinburghにおいて開催された逆問題に関する国際シンポジウムにおいて発表した.また国内においても京都大学数理解析研究所におけるスペクトル散乱理論のシンポジウム,東京大学における微分方程式の総合的研究に関するシンポジウム,筑波大学における偏微分方程式国際シンポジウムにおいて発表した.またSchrodinger方程式の散乱問題における多次元逆散乱理論に関する解説をアメリカ数学会の雑誌に発表した.数理物理学における微分方程式に関する著書を出版した. 3.進行中の研究.半空間における定常弾性波動方程式の解の漸近展開からRayleigh波を導く研究を進めつつある.また全空間における弾性波動方程式の解の漸近挙動から媒質を再構成する逆問題の研究を行っている.Schrodinger方程式の逆問題において有効であったFaddeevのグリーン作用素を弾性波動方程式の場合に構成することが重要な問題であり,そのために多変数関数論が重要になる.
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