研究概要 |
量子物理学に現れるSchrodinger作用素に対する散乱問題を中心にして,散乱現象の逆問題に関する理論的研究を行った.まず3体問題の散乱を記述するために,連続スペクトルに対応するFourier変換の3体問題への一般化を構成した.さらに定常Schrodinger方程式の解の無限遠における漸近展開を求め,一般化されたFourier変換との関係を明らかにし,S行列を散乱解の無限遠における漸近展開から導いた.また斉次Schrodinger方程式の解がすべて一般化されたFourier変換によって記述されることを示した.これらの結果は多体問題では初めて得られたものであり,物理的にも数学的にも深い意味をもっている.これらの仕事はまとめてCommunications in Mathematical Physicsの第222巻に掲載された.場の理論のモデルの一つである外場の中の粒子に対するS行列のFock空間への実現の問題をリーマン多様体の上で考えた.この結果はReviews in Mathematical Physiscsの第13巻に掲載された.さらに双曲多様体の上でのスペクトル逆問題の研究をすすめ,双曲空間に平行移動による離散群が作用して出来る双曲多様体上でのSchrodinger作用素は,エネルギーを固定したとき,Floquet作用素に対する散乱振幅から再構成できることを示した.これからさらに2次元ユークリッド空間での固有値問題に対する逆問題を考え,ポテンシアルがDirichlet-Neumann作用素から再構成されることを示した.これは長い間懸案だった問題であり,肯定的に解決されたことは非常に意義深い.
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