本研究の目的は、半導体アンチドット格子系が示す巨大な負の磁気抵抗効果の起源の解明とその制御方法の確立である。まず研究費を用いてMBE制御装置を購入し、現有のMBE装置本体と組み合わせて、アンチドット2次元電子系の母体となるGaAs/AlGaAsヘテロ接合(HEMT)基板の成長を効率良く行える研究環境を整備した。アスペクト比が大きく電子がアンチドット壁での散乱なしに長距離走行できないような系において、80%に及ぶ非常に大きな負性磁気抵抗が現れることを示した。これは窒素温度以上の高温(100K以上)まで存続した。このことから負性磁気抵抗の主な起源はバリスティックな古典的軌道効果であると予想された。そこで古典的軌道とボルツマン方程式を用いた数値計算を行ったところ、低温の磁気抵抗をほぼ完全に再現し、アンチドット系の負の磁気抵抗の主要因が軌道効果であることを明らかにした。これから軌道効果を助長する構造として「蝶ネクタイ型」アンチドット3角格子を考案し、実験を行ったところ、非常にシャープな負性磁気抵抗を得ることに成功した。一方、低温低磁場領域においては温度依存性を持つ負性磁気抵抗成分が存在することを見出したが、これは電子波の干渉で生じた一種の局在効果によるものであると考えられた。アンチドット系についてのバリスティック弱局在理論との比較を行ったが、必ずしも良い一致は得られなかった。これはアスペクト比の大きいアンチドット系ではバリスティック局在の度合いが強く、スケーリング的な弱局在領域を逸脱しているためであると考えられる。
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