本研究の目的は固体中の励起子準位においてフェムト秒パルスのEITを実現させ、励起子共鳴での吸収の低下と非線形効果の増大を目指すことにある。3準位系として、基底状態|g〉、励起子状態|ex〉、励起子分子状態|bi〉を選ぶ。物質としては、不均一広がりがないことと、種々の物性パラメーターが既知であるという理由から、CuClを用いた。 本年度は、波形制御・波形測定系の構築と励起子共鳴領域での非線形伝播特性の研究をおこなった。現有のフェムト秒波長可変レーザーより得られる200fsのパルスを、CuClの励起子共鳴領域にエネルギーを設定し、数ミクロンの厚さのサンプルを透過したときの波形を測定した。波形測定には差周波数混合による相関法とカーゲート法を用いた。また、カーゲート法によって得られるパルスのスペクトルを分解することで、スペクトル分解の波形測定法が可能となった。励起子共鳴領域の伝播では、次の3つの物理現象を確認した。 1)上肢ポラリトンと下肢ポラリトンのビートを観測し、そのビートが強度を上げると消失することがわかった。これは、励起子の多体効果による位相の乱れに起因すると思われる。2)スペクトルの低エネルギー成分によるプリカーサーが観測された。メインのポラリトンパルスからはっきりと分離しており、通常のプリカーサーとは性質が異なる。これは励起子分子2光子共鳴による効果であると考えているが、現在のところ確認には至っていない。3)見かけ上真空の光速度よりも速く伝播するスーパールミナル伝播が確認された。この伝播は試料依存が大きいため、励起子のコヒーレンスが悪くなってポラリトン的でなくなると生じるのではないかと考えている。 以上の3つの現象について実験的に確認された段階であり、そのメカニズムについてはまだ明らかでない。次年度はこのメカニズムの解明と、量子干渉効果の確認を目指す。
|