新しい電子線エネルギー分析器と単色化X線源を導入し、薄膜の光電子分光測定を行った。遷移金属酸化物薄膜を酸素中でアニールするなどして表面処理を行い、その清浄表面の光電子分光測定を行った。特に、Zn_<1-x>Mn_xO等の遷移金属酸化物薄膜の測定を進めている。研究計画当初に目標に掲げた、遷移金属酸化物薄膜成長中を光電子分光で観察するに至らなかったが、三角格子構造を持つ層状コバルト酸化物の光電子分光測定によってその電子状態に関する知見が得られるなどの副産物があった。特に、三角格子を持つ層状コバルト酸化物Ca_3Co_4O_9の電子状態を光電子分光で調べ、Co 2p内殻および価電子帯の光電子スペクトルからコバルトが低スピン状態をとることを示した。低スピン状態のCo^<3+>とCo^<4+>が三角格子上で電荷秩序する可能性を非制限Hartree-Fock近似計算によって調べ、その電荷秩序状態の状態密度と価電子帯の光電子スペクトルを比較した。さらに、Ca_<2-x>Sr_xRuO_4の単結晶試料を光電子分光によって調べ、表面およびバルクの電子状態を明らかにした。価電子帯の光電子スペクトルを非制限Hartree-Fock近似計算より得られる状態密度と比較した。さらに、クーロン相互作用の2次摂動で得られる自己エネルギーを計算し、自己エネルギー補正によって実験結果をよりよく再現できることが明らかになった。Ca_<2-x>Sr_xRuO_4およびCa_3Co_4O_9の光電子分光による研究成果は、平成15年3月の日本物理学会において発表する予定である。
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