生体内には様々なリズムや運動が非線形化学反応によって生み出されている。このような非平衡散逸系に発現するリズムやパターンは無数の分子の協力現象の結果であり、その機能的な運動や情報伝達はそれらの時空間的な相互作用から派生する。特に、マクロに発現する振動現象は構成する要素間の引き込み現象、いわゆる同期(シンクロナイゼーション)から生まれるもので、これは典型的な秩序化現象である。その際に乱雑な入力があると秩序化が阻害され乱れるものと考えられがちである。ところが本研究ではノイズ外力を加えると、ある強度であればかえって秩序化(同期:シンクロナイゼーション)が促進あるいは発現される現象が見出された。しかも、最適の強さのノイズを加えるとノイズなしの場合よりも同期領域の幅が大きく広がり、さらに大きな強度を増すと今度はその同期領域が減少し始め、最終的には同期が起こらなくなる現象が観測された。そこで、その同期メカニズムの解明を目的として研究がなされ、次のような成果が得られた。 (1)光で定量的に振動制御可能な振動化学反応実験系を構築した。 (2)光刺激の強度と濃度振動との間の定量的な関係を求めることができた。 (3)定常の光刺激を加えた場合には、振動周期の変化は殆ど観測されないが、光ノイズを加えると、その強度を増すと振動の周期が最大25%長くなり、最終的には振動が止まることが分かった。 (4)その際に振動化学物質の濃度振幅がノイズ強度とともに変化することを期待したが、振幅の変化は観測されていない。このため、まだ刺激に対する数理ダイナミックスを同定することができるほどの基本的な実験データを求めることには成功していない。 (5)空間的な引き込み(同期)ダイナミックスを明らかにするために、触媒を複数の吸着ビーズに準備・反応溶液に浸し、その間隔を変えて同期がビーズ間距離(相互作用の大きさに相当)にどの様に依存するか調べた。その結果、距離が近いほど容易に同期し遠く離れた周期の間でも同期するが、距離が遠いと近い周期でなければ同期しないことが分かった。これらの距離、周期差がノイズ強度に依存することが分かった。
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