研究概要 |
昨年度の研究では氷床のトポグラフィから火星氷床が流動しているのか、またどれくらい古い氷が存在するのかについて理論的な検討を行った。まずMOLA(火星極軌道衛星搭載レーザー高度計)により最近採取された表面高度データを用いて氷床の表面形状を近似し、氷の密度を1400kg/m^3(Zwalley, personal communication)として底面せん断応力を求めると0.01(8160)160.07Mpaとなる。次に定常温度分布を仮定して氷床内温度分布を求め、予想される応力・温度範囲内で変形機構図を作成したところ、火星北極氷床の変形機構は地球の場合と同じで、拡散クリープと転位クリープの境界付近にあると考えられる。これらより流動則を考慮して火星北極氷床の平均流動速度および鉛直ひずみ速度を推定したところ、0.03(8160)160.18m/a, 6×10^<-8>(8160)162×10^<-7>a^<-1>となり、消耗域の氷の年代を求めたところ数百万年から数千万年と見積もることができた。ところがこの研究では火星北極氷床の氷は地球氷床の氷のように不純物を殆ど含んでいない氷として扱っている。しかしながら、火星氷床表面のアルベード観測からは火星の氷は固体微粒子(主にSio_2)を多量に含んだ氷と考えられ地球氷床氷とは異なった流動特性を示すことが考えられる。 本年度の研究では昨年度の研究を発展させるため、等しい粒径のSiO_2(0.1μmと1μm)を多量に含有した氷を人工的に作成し、一軸圧縮クリープ実験により、模擬火星氷の力学的性質を調べる研究を行った。微粒子濃度を1%から20%まで変えて実験を行ったところ、微粒子濃度の増加とともに氷は著しく硬化すること、1μmのSiO_2を含有した氷の方が0.1μmの場合より硬化の度合いが大きいという結果が得られた。さらに、SiO_2を多量に含有した氷では結晶粒成長や再結晶が殆ど起きず、氷の結晶は0.1mm以下の微細粒状態が保たれることが明らかとなった。この結果から火星氷床の変形機構は拡散が卓越していると考えられ、これまで発表された多くの流動シミュレーション結果を覆すこととなった。この成果は本年8月にフランスで開催される国際雪氷学会のシンポジウムで発表される。
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