研究概要 |
本研究者らは10年以上も前から典型金属化合物としての有機アルミニウム反応剤を用いる新規合成反応の開発を手懸けてきた。元来、有機アルミニウム化合物はその電子欠損性のため分子間会合しやすく、溶液中ではなかなかモノマーの状態で存在しないこのため近年、本研究者はある程度のかさ高さを導入することによって分子間会合を防ぎ、モノマーの状態に近づけた有機アルミニウム型人工酵素を幾つか創り上げてきたが、その際、従来の常識(すなわち、3配位型と4配位型のアルミニウム)では説明できない実験結果を幾つか得ている。しかしながら仮想的なアピカル型5配位中間体を考慮すれば、うまく説明がつくことが多い。そして最近、幾つかのキレート型5配位アルミニウム中間体の検出に成功している。本研究ではキレート型5配位ホウ素中間体の存在を実験的に確認できるかどうか調べた。基質としてヒドロキシカルボニルあるいはジカルボニル化合物を選び、それらをルイス酸としての三フッ化ホウ素エーテル錯体を用いて、ジアステレオ選択的に還元反応が進行することを見いだした。この反応では、活性中間体としてキレート型5配位ホウ素化合物、或いはキレート型6配位ホウ素化合物を経由していると考えると、ジアステレオ選択性発現に関してうまく説明がつく。ホウ素原子は他のルイス酸金属に較べ、配位する酸素原子との配位結合が短いため、1,4-ジカルボニル化合物とのキレート型高配位中間体形成が可能になる。とくに他のルイス酸金属では非常に難しい7員環キレート形成を取りうるため、遠隔不斉誘導が達成できる利点があることが判った。
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