1.ポルフィリンの合成とリチウムイオンとの反応 水溶液中でポルフィリンがリチウムイオンと反応するには、ポルフィリンの塩基性を減少させる必要がある。そのために、ピロールのβ位にある8個の水素原子を全部臭素原子で置換したオクタブロモポルフィリンを合成した。予想どおり、塩基性が減少し通常では見られないピロールのプロトン解離がpH10で起こった。リチウムイオンとはpH10以上で反応した。ナトリウムオンは反応しなかった。 2.リチウムイオンとポルフィリンとの反応機構 水溶液中でリチウムポルフィリン錯体の生成と解離速度をNMR法で求めた。水和リチウムイオンとリチウムポルフィリン錯体は10ppm程離れた二つのピークとしてそれぞれ明確に現れた。273K-304Kの温度におけるピーク幅の変化から、リチウムポルフィリンの生成速度と解離速度と速度定数を求めた。リチウムポルフィリンの生成速度は[OH^-]の濃度に一次に依存し、錯体の解離速度は[OH^-]の濃度([H^+]の濃度に依存しなかった。従って、ピロールの水素イオンが解離したポルフィリンがリチウムイオンと反応する。一方、リチウムポルフィリン錯体は溶媒和によって解離することが明らかになった。反応機構はリチウムイオンの強い水和力のため、従来の錯形成反応とは大きく異なっていた。 3.ポルフィリン担持によるリチウムイオンのセンシング膜の開発 酢酸セルロース膜中に合成したポルフィリンと高分子対イオンをドウプさせたリチウムイオンセンサー膜を作った。種々の対イオンの濃度依存性と生成速度を求めた。その結果、リチウムイオンの応答は高分子対イオンに大きく左右されることが分かった。高分子対イオンとしてテトラブチルアンモニュウムが最適であった。膜中のポルフィリンの脱プロトン化反応はpHと高分子対オンの濃度に依存し、リチウムポルフィリンの生成はpHのみに依存することが明らかとなった。
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