研究概要 |
申請者らは,真正粘菌Physarum polycephalumで,ミトコンドリア融合を誘起する極めて特殊な表現型をもつミトコンドリアプラスミド(mF)を見いだしている.本研究課題の目的は,1)このmFプラスミドの起源とミトコンドリアへの侵入・伝播・成立の分子機構とその存在意義を明らかにするとともに,2)mFプラスミドミの水平伝播能を利用し,ミトコンドリア・トランスフォーメーション用のベクター開発を目指すことにある. mFプラスミドは,mtDNAの一部(mID,479bp)とほぼ完全に相同な領域(pID,475bp)をもっており,この間の相同組換えによって,mtDNA内に組み込まれる.mIDがmtDNAに残されたmFプラスミドの痕跡とすると(pID→mID),mFプラスミドは,(i)P.polycephalumの種の確立する以前にミトコンドリアに侵入していたか,(ii)種の確立以後に極めて速やかに種全体に伝播したと考えられる.逆にpIDがmtDNAに由来するものなら(mID→pID),(iii)mFプラスミドは極最近になってP.polycephalumに侵入した可能性が高い.3つの仮説(i〜iii)の当否を正しく検証するためには,本年度の具体的な研究計画については,現在保有しているP.polycephalumの由来の異なる変形体8株と粘菌アメーバ22株に,北米の研究室株および野性株を加え,mFプラスミドを保有する粘菌アメーバ株を多数確立することにした. 1)パルスフィールド電気泳動法とサザンハイブリダイゼーション法を用いて,mFプラスミドあるいはそれに類似したミトコンドリアプラスミドの有無を調べ,株を単離した年代や場所とmFプラスミドとの関係を明らかにするために,新たに少なくとも3種のmFプラスミド保有株を単離した. 2)PCR法を用いて,組換え型,pIDとmIDの有無およびその塩基配列を決定し,塩基置換の種類と有無によってmIDとpIDの系譜図を作成することを試みている.また,1)で単離したmFプラスミド保有株の次世代では,ミトコンドリアゲノムの高頻度の再構成が起こっていることも明らかにした.
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