がん細胞にみられる増幅した遺伝子は、多くの場合染色体外遺伝因子であるDMの上に存在する。DMが排出されると、多くのがん細胞は脱がん化、分化する。この際の排出は、細胞質に生じた微小核へDMが極めて選択的に取り込まれることを介する。我々は、微小核を精製する方法を樹立し、その中のDNAを調べたところ、DMのDNAが高度に濃縮されていることを以前示した。本研究では、DMを選択的に取り込んで形成される微小核の核マトリックスに、DMの間期核内における高次機能となんらかの点で関連したRNAが濃縮されている可能性が高いと考え、そのようなRNAの解析を行っている。本年度は、ヒト大腸がん細胞COLO320DM株を使用し、最初に、微小核精製法をさらに改良することを行った。その結果、従来法に比べて2倍、精製度を上げることに成功した。次に、精製微小核マトリックスRNAから調製したプローブを用いて、COLO320DM細胞に対してRNA FISHを行った。その結果、微小核にハイブリダイズしたシグナルが見られるとともに、間期細胞核内の特定領域にもシグナルが見られた。そこで、RAP(RNA arbitrarily primed)PCR法を用いて、核マトリックスRNAと比較して微小核マトリックスに濃縮されているRNA分子種を同定する試みを行った。本実験では80種類以上のプライマーの41種類の組み合わせについて検討し、微小核マトリックス特異的なバンドを19種同定した。そこで、このようなバンドからcDNAを抽出し、ベクターに組み込んで、塩基配列を決定することを、現在急いでいる。得られた配列は、その周辺配列をもとにPCRでプローブを調製し、RNA FISHにより微小核、あるいはDM染色体領域への局在性等を検討していく予定でいる。
|