性比の進化に関する理論的研究によれば、母親はさまざまな状況に応じて出生性比を調節するはずである。最近哺乳類や鳥類において、この予測を支持するように見えるデータが蓄積されてきた。しかし、調査された哺乳類や鳥類のクラッチサイズは小さいため、性比の推定精度は必ずしも高いものではなかった。本研究の目的は、ZW型性決定を行うツチガエルを材料に、母親が適応的な性比調節を行うことを立証することである。 野外でさまざまな時期に採集した卵塊(母親1個体由来のもの)から、各卵ごとにDNAを抽出し、性染色体上にある遺伝子をマーカーとして、PCR-RFLP法により性判定を行なった。ツチガエルは5月から8月にかけて長期間産卵を続けた。早い季節に産卵する母親にとっては、オスを多く産めば、年内に無尾型に変態し、翌年から繁殖に参加できる点で有利であると予測される。逆に、遅い季節に産卵する母親は、オスバイアス性比を補償するように、メスを多く産むと予測される。DNA性判定によって得られた結果はこの予測を支持するものだった。すなわち、5-6月に産卵された卵塊では、オス:メスが1:2程度の場合が少なくないが、8月に生まれた産卵された卵塊では、メスがオスよりも多い傾向が見られ、これらの傾向は統計的に有意だった。これらの事実は、ツチガエルにおいて適応的な性比調節が行われていることを示す決定的な証拠である。この研究成果を論文にとりまとめ、Molecular Ecology誌に公表した。
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