磁気受容機構については、主に体内の磁鉄鉱粒子依存説と、光受容器媒介説の2つが有力で、どちらも多くの傍証を固めてきている。そこで、フナムシが磁気受容機構の研究材料になるか確かめるために本研究を行っている。本年度は行動学的に、フナムシに磁気受容能力があることの証明と、磁鉄鉱依存説に基づいて鉄粒子の存在を組織科学的に調べた。 数種の昆虫で休止中に、体軸が南北あるいは東西の地磁気に関連した主要軸方向に向くことが知られているが、フナムシでは主に、生息地の海岸線の直角方向、すなわち海陸軸方向を向くことがわかった。また、採集したフナムシを離れた未知の場所で逃がしたところ、やはり、生息地の海岸と直角方向に逃げることが分かった。これらの、休止時の向きや、逃避方向は、視覚手がかりを使えない状態(狭い円柱内あるいは複眼を塗りつぶした状態)でも同じ方向を示し、磁気感覚に依存している可能性が示された。そこで、外部から磁力を加えて、地磁気の方向と異なる磁力を与えると、多くのフナムシで与えられた方向に応じて、休止時の方向が回転した。また強い磁力を加えることで、休止時の方向指向性が強化され、フナムシが磁気を受容できることが示された。 採集後、実験室の水槽で1週間ほど飼育したフナムシでは休止時の方向指向性が失われることや、海岸線の方向が違う場所のフナムシは異なる方向指向性を示すことから、フナムシは普段の生活での海岸-内陸方向の移動から、地磁気を手がかりに海陸方向を記憶するものと考えられる。 数種の鉄染色により、フナムシ体内の鉄分の存在を調べた。甲殻類のクチクラには様々な金属が存在することが知られているが、フナムシのクチクラにも所々に鉄にたいする反応が見られた。しかしこれは、磁気受容には関係しないと思われる。脳の後背側のアラタ体付近に鉄染色に染まる組織見られた。現在、その組織での鉄の存在様式と、細胞の構造を調査中である。
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