本研究は、オオスズメバチ(Vespa mandarinia、以後スズメバチと略す)の長距離飛行を可能にする視覚中枢の機構を解明することを第1の目的とし、その研究の主要方法である飛翔航路の追跡のためのテレメトリー法を確立することを第2の目的としている。以下、この目的別に成果を報告する。 1)本研究はスズメバチの視覚飛行を課題とするが嗅覚の寄与を検討した。スズメバチが1集団でミツバチの巣箱を襲い群れを全滅させることはよく知られている。スズメバチがミツバチのように収穫ダンスで仲間に餌場を知らせることは確認されなかった。数匹のスズメバチを、餌場から100m離れた場所に外部からは見えない状態で置くと、数時間以内に仲間が捕獲されたスズメバチの近くに飛来した。このことは、収穫飛行に嗅覚も関与することを示している。 2)嗅覚の寄与を調べるため、触角を切断した。触角を欠くスズメバチは正常個体と同様に収穫飛行を繰り返した。このことは、嗅覚的手掛かりがなくてもスズメバチは餌場と巣を往復できることを示している。 3)スズメバチの視覚解像度は光学的測定で約1度であった。ヒト眼の解像力より2桁程低い。スズメバチは固定された2台の解像力の低いビデオカメラで外界を視ていることになる。それにもかかわらず、オオスズメバチは1km以上離れた巣と餌場を往復することが出来る。飛翔コースを追跡した結果、スズメバチは航路近傍の特徴ある構造を方向と関連づけて飛翔航路を記憶することが明らかになった。この過程では複数の視覚的な目印が順序だてて記憶、呼び出されるため、目印の1つが除かれると、その後の行動に進むことが困難であることが明らかになった。 2)テレメトリー法の正否は発信機出力と重量に依存する。スズメバチに取り付ける発信機のラジオ波をいかに遠くに飛ばすかが重要である。本年度は、スズメバチの飛翔を妨げない超軽量発信機の設計を行った。
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