研究概要 |
分類学上「科」のレベルで分けられているヒトとチンパンジーの差異の分子(遺伝)的背景とは何かを明らかにし,ヒトとチンパンジーの間の形態的特徴の差異を分子レベルで理解していくために,これまでの分子人類学的研究で取り扱ってきた「生物系統の指標としての分子配列情報」ではなく,「遺伝子発現における分子機能情報」の比較解析を進めた。具体的には,「ヒトとチンパンジーで遺伝子発現系にどのような違いが存在するのか」を明らかにすることを目的として,転写因子と転写仲介因子の機能に関して,ヒト・チンパンジー間の比較をおこなった。 転写因子は遺伝子発現を調節する機能を有すると共に形態形成に係わる因子であることが近年明らかにされた機能分子であり,転写仲介因子は転写因子に結合してその活性をモジュレートすると同時に転写因子の特異性誘導に不可欠な機能分子である。本年度は,ヒトならびにチンパンジーそれぞれについて,遺伝子発現プロモーター領域に特異的に結合して下流遺伝子の発現をコントロールする転写因子の機能に関する分析をおこなった。そのために,ヒトとチンパンジーそれぞれの転写因子のクローニングを進めた。現在,これら転写因子遺伝子を組み込んだ発現ベクターを細胞内遺伝子導入法を用いて培養細胞に導入し,一緒に導入したレポーター遺伝子の発現量を指標として,ヒトとチンパンジーそれぞれの転写因子がもつ転写活性化能を定量化を進めている段階である。
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