毛細血管内の血流は、観察的研究により定性的には理解されているが、ミクロンオーダーの流動であるため計測が困難で、定量的データはほとんど得られていない。一方、拡大モデルによる流体工学的実験では、計測は可能であるが、生体内のミクロ流動の状況を再現しているとは言い難い。生体内のミクロな血流の定量的理解は、がん細胞の転移の正確な予測などにおいて極めて重要である。これを可能とするために、ミクロな生体組織による生体工学的実験と、流体工学的モデル実験とを融合し、さらに計算機による数値シミュレーションを援用して、新たな解析手法を確立する。この研究は、ミクロな生体流動現象を定量的に理解する新たな学問分野としての「ミクロ生体流体工学」を体系化するための基礎を確立することを目的とする。 本年度は、基礎的実験として、赤血球とガラス板との間の摩擦特性の測定を行った。実験装置には、試料に対する遠心力の方向が調節可能な傾斜遠心顕微鏡を用いた。回転速度と試料の取り付け角度を変化させながら赤血球の移動を観察することにより、赤血球とガラス板との摩擦特性を計測した。本年度の検討により、これまで測定例のない低速度域での摩擦特性を計測するための手法を確立した。今後は、対象を赤血球やがん細胞と内皮細胞との間の摩擦特性に拡張し、これらの基礎データをもとに毛細血管内の各種細胞の流動モデルを構築する。
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