研究概要 |
本年度は固体表面の「濡れ」特性を評価するために,表面張力に関する接触角などの従来から行われている巨視的な手法に加えて,近年熱流体工学分野でも活用され始めた分子動力学手法の導入を図った.その際,まず,計算対象になる固体壁-液滴系として,他の研究者らの計算結果が比較的多く報告されている物質の組み合わせを選ぶことにし,固体壁はその表面が面心立方格子(fcc)の(111)面になるように配置した4層の白金分子によって,一方,液滴は初期状態においてやはり面心立方格子状に配列した256〜864個程度のアルゴン分子によって構成した.次に,系の構成要素としてのそれぞれの分子について,分子間ポテンシャルには,これも比較的シンプルなポテンシャルを採用することとし,白金分子間の相互作用にはバネーマスポテンシャルをアルゴン分子間およびアルゴン分子-白金分子間のポテンシャルにはLennard-Jones(12-6)ポテンシャルを仮定した.このような系に対して,分子動力学計算を行い,系の設定温度に対応する平衡状態が実現できるようにした. さらに,固体表面を構成する白金分子の配置を操作することによって,分子オーダーの凹凸を表面に設定し,それを表面粗さと見なすことにした.アルゴン分子で構成される液滴(分子群)を凹凸が付いた固体表面に接触させて,その状態が変化していく様子を分子動力学の手法を用いて計算した. その結果,壁面粗さを規定する凹凸の有無に対して,液滴の形状が変化する様子や,表面上を移動する様子が計算によって捕らえることができた. 今後,表面張力の評価方法の検討や計算の時間短縮を図る工夫を行うとともに,液滴-壁面間の構成分子のポテンシャル,あるいは液滴を構成する個々の分子の挙動などが,凹凸の有無やパターンによってどのように変化するかを比較し,考察を加えていく予定である.
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