研究概要 |
量子系は,量子論的測定過程をシステムが含むか否かによって系の数学的記述が全く異なるので、制御対象を記述する方法が古典系とは著しく異なる.本年度はこの特徴に留意し,Entanglementの概念にもとづいて量子論的測定過程を含む場合と含まない場合についてフィードバックの概念を導入した.前者は「自然な」フィードバック,後者は「外付けの」フィードバックにそれぞれ対応する.制御理論においてはこれまで量子系におけるフィードバック制御の研究はなされておらず,一方物理学においては物理的な直観に基づくフィードバックの研究が進められてきたが,制御と言う観点からきわめて不十分であった.今年度得られた結果はその意味で概念的にこれまでにない完全性をもつフィードバック制御の枠組みが量子系に対して得られたと考えられる.本研究によって制御理論の視点から,量子フィードバック系の解析,設計が可能となった. さらに本研究の応用例として,スクイーズド状態を生成するシステムの設計について考察した.スクイーズド状態は1970年代に発見され,その興味深い性質と量子力学における主原理,ハイゼンベルグの不確定性関係と深くかかわることから,理論的にも多くの研究がなされてきたが,その状態を実験的に生成することは今なお困難な問題とされている.我々が導入したフィードバックの手法によって,スクイーズド状態を生成するシステムの設計を外乱除去問題として位置づけることが可能となり,制御理論において開発されてきた有用な手法,特に,Jロスレス分解とそれに基づくH^∞制御でのコントローラの設計手法が適用可能となった.
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