研究概要 |
本研究は,原生動物などの微生物を高密度に培養すると自律的に発生する生物対流について,原生動物が持つ走性を利用してその流れを制御し,工学的に利用することを目的とする. 昨年度の実験の結果,印加直流電位勾配が0.12V/mm以上になると,-電場を印加した電極の下部に下降流を発生あるいは移動させることができることが明らかになった.この結果を元に,応用例として,微少水車を位置制御した下降流により駆動することを試みたが,電極アレイのピッチが粗く,下降流を微少水車に効率よく当てることができないこと,下降流の流れが弱く,水車を連続的に回転させるにはさらに強い下降流を発生させる必要があることが明らかになった. そこで本年度は,まず電極アレイのピッチの最適化を行った.その結果,印加電極の幅が合計2mm以下であれば,一本の下降流が安定して発生すること,電極間の隙間は0.2mm以下に押さえないと,複数の電極に印加したときに一本の電極に印加するのと等価には扱えないことなどが明らかになった. さらに,複数電極に電場を印加する際に,ガウス分布に基づき印加電圧を決定することにより,電極間の隙間を含む電極アレイ上の任意の位置に下降流位置を自在に誘導制御できることを見いだした. しかしながら,下降流の流速の強化に関しては,様々なスケールの容器,様々な数密度の溶液で実験を行ったが,流速を上げることはできなかった. ガウス分布による複数電極への電場印加と,画像処理による下降流位置検出・フィードバックにより,0.14mm/s以下の速度であれば安定して下降流を移動制御することに成功した. 以上の制御した下降流により,全長10mmの小型シーソーを自動的に往復動させることに成功した.1周期は約150sであった.これは,生きたマイクロ群ロボットにより,上位レベルの秩序を生成し,より大きな機械の駆動に利用した,初の成功例であると考えている. 今後,上昇流の制御など,よりトータルな生物対流の制御を目指したい.
|