建築空間において最も基本となるにおいとして、建材から発生するにおいに焦点を当て、種々の建材のにおいが在室者に及ぼす心理的な影響について検討を行った。ベイヒ、ナラ、合板、畳、コンクリートの計5種類の材料から発生するにおいを対象として、パネル(被験者)を用いた官能試験(におい袋法)を行った。心理影響として、においの強さ、快適性、嗜好性、容認性及び印象評価を取り上げ、多角的な心理影響の把握を試みた。強さ、快適性、嗜好性、容認性については言語評定尺度法を用い、印象評価についてはSD法を用いた。実験方法としては、小さなチャンバー内に各建材を一定時間放置した後、チャンバー内の空気を原臭として採取し、一定希釈倍率で希釈した後におい袋に注入しパネルに評価させた。パネルは6名とし、嗅覚テストに合格した者だけを採用した。あらかじめ原臭の臭気濃度を特定した後、それぞれのにおいについて3段階の臭気濃度において評価実験を行った。研究の結果下記の知見が得られた。 1.ベイヒを除いた他の四つのにおいに於いて、臭気強度がある程度以上高くなると不快感が高くなるとともに嗜好性も嫌い側の評価が得られ、その結果として容認率も低くなることがわかった。ベイヒではその様な傾向は見られず、建材の中では高濃度でプラスの心理影響を与えるにおいであることが示された。 2.においの印象評価として行わせた22の形容詞対を用いたSD法による評価実験の結果を基に因子分析を行った結果、四つの因子が抽出され、それぞれに「親しみ」、「新鮮さ」、「複雑さ」、「温かさ」と命名した。各においの因子得点について考察を行った結果、ベイヒは「新鮮さ」がきわだったにおいであり、ナラ、合板、コンクリートのにおいは新鮮さよりも「親しみ」が高い特徴を持っていることかわかった。また、畳のにおいは複雑で温かい印象のにおいであることが明らかになった。
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