研究概要 |
人工光合成を模倣した光エネルギー変換システムを実現する分子として、ドナーとアクセプターを結合した分子が広く研究されているが、われわれはアクセプターとしてフラーレンを用いることによりマイクロ秒オーダーの電荷分離状態の寿命を有する分子系の実現を目的とした。初年度においてはアズレン、レチニル、オリゴチオフェンをドナーとして用いたドナー・アクセプター結合分子を新規に合成し、その電荷分離状態の寿命についてナノ秒レーザーフラッシュホトリシス等を用いて測定し、電荷分離状態に及ぼす溶媒、酸素、温度の影響について検討した。 アズレンを用いたドナー・アクセプター結合分子は極性溶媒であるベンゾニトリル中でフラーレンの励起一重項状態から電荷分離するが、その電荷分離状態は励起一重項状態とほぼ同じエネルギーレベルにあるため励起一重項状態との平衡が見られた。さらに極性の高いDMF中においては励起三重項状態との平衡が見られ、電荷分離状態の寿命は数マイクロ秒であることが明らかになった。これらの結果は溶媒極性により変化する電荷分離状態のエネルギーレベルに依存して、平衡による長寿命化が実現することを示すものである。励起三重項状態との平衡は酸素によるラジカル種の失活からも確認された。 一方,レチニルをドナーとしたドナー・アクセプター結合分子でも励起三重項状態との平衡による電荷分離状態の長寿命化が確認され、室温で20マイクロ秒もの寿命が確認された。さらに、温度変化について検討したところ、フラーレンを用いたダイアッド分子の溶媒再配向エネルギーが他の分子系に比べ小さいことが確認された。
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