常磁性クラスター錯体の不対電子は一般に金属原子間結合上に生じる。この不対電子軌道を錯体外部に露出させ、その結晶において隣接錯体の不対電子軌道と互いに相互作用させると、電導性や磁性などの物性面で特質有る素材を構築できると期待され、その様な研究の一環として、架橋ハライドイオンを用いて隣接常磁性錯体の不対電子を相互作用させ、その相互作用の大きさや機構を評価することを本研究は目指すものである。 Tetrakis(acetamidato)dirhodiumカチオンラジカルアコ錯体の過塩素酸塩と塩化ナトリウムもしくは臭化ナトリウムを水溶液中において反応させて、反応温度に応じてそれぞれ2種類、全てで4種類の結晶を高い収率(70%以上)で得た。X線構造解析により、いずれの結晶もハライド架橋したロジウム複核錯体のジグザグ1次元鎖骨格から成ることが示され、これらの骨格構造は従来知られていなかった初めてのものである。25℃以下の反応温度では、結晶水をもつ結晶が得られ、高温(40℃以上)では、結晶水をもたない結晶が得られた。これらの結晶水含有の反応温度依存性は、結晶生成が熱力学的反応支配と仮定すると、結晶水によるエントロピー減少の効果として、合理的に説明できる。結晶水含有形結晶は不安定であり、室温大気下で風解した。一方、結晶水を含まない方の結晶は、室温大気下で安定である。ブロマイド架橋錯体のモル磁化率はCurie-Weiss則に従って増加し、-5Kで最大値に達し、より低温では、磁化率の減少が見られた。このような反磁性的挙動は、金属原子間δ^*不対電子軌道が架橋配位子4pローンペア軌道を介した相互作用によると解釈される。次年度は、種々のアニオン性多座配位子を架橋配位子として用いて、様々な低次元配列系を構築し、その物性評価を通して、隣接ラジカル間相互作用を調べて行く計画である。
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