研究概要 |
植物体内の水移動やその調節機構を明らかにすることは,作物生産における水利用効率や耐乾性の向上を図る基礎として重要である.そのためには,多くの個体を対象に迅速に植物体内の水輸送状況を把握することが不可欠である.ここでは,従来の方法とは異なる新しい発想による簡易かつ迅速な診断法(植物体切断法)を考案,確立するとともに,合わせて作物ごとの水輸送の特徴を明らかにすることを目的とした.1)まず,ネピアグラスを対象に実験を進め,植物体の部位別切断にともなう光合成,蒸散バースト反応を測定,解析し,切断法が水移動の解析手段として多くの植物に対して有効であることを予測した.2)次に,ネピアグラスとトウモロコシ両種の茎内における水の通導抵抗をサップフローゲイジによって測定し,両者の差異を明確にするとともに植物体切断法の有効性の裏付けを行った.3)両種とも高い生産性を有するC4植物として知られるが,特にネピアグラスは草本種の中では最も高いバイオマス生産を有する.ネピアグラスの形態的特徴は,地下部発育が地上部に比較して著しく劣る点であるが,このような中で高い生産を実現するためには,本草種に優れた水利用機能が存在するものと予測される.トウモロコシと比較して,ネピアグラスは茎内の節部や葉鞘部に水の通導抵抗が特異的に高いところがあり,植物体の各部位ごとに水輸送を調節する機能が存在した.これに対して,トウモロコシではそのような細かい水輸送調節機能の存在は認められなかった.節水型栽培の確立や節水型品種の育成を図る場合,ネピアグラスに存在する機能は重要な情報となるものと考えられたため,作物学会で二課題を講演発表した.
|