土壌腐植酸中の蛍光成分に富んだ画分(蛍光画分)は芳香族性が著しく強いが、類似した^<13>C-NMRスペクトルが埋没黒ボク土腐植酸においても認めれられる。そこで、土壌腐植酸の蛍光成分の起源を検討するための第一段階として、母材の堆積年代の異なる埋没黒ボク土から腐植酸を抽出し、セファデックスクロマトグラフィーによって蛍光画分とそれ以外の画分(腐植画分)に分画後、高速サイズ排除クロマトグラフィー、紫外可視吸収スペクトル、3次元蛍光スペクトル、CP-MAS ^<13>C-NMRスペクトル、MALDI-TOF MSにより化学的性状を解析した。埋没黒ボク土の腐植酸は、堆積年代が古くなるほど分子サイズが小さくなると同時に芳香族性が強くなり、蛍光画分と腐植画分は非常に類似した^<13>C-NMRスペクトルを示すようになった。しかし、^<13>C-NMRスペクトルは似ていても、蛍光画分と腐植画分とが厳然と区別でき、腐植画分の蛍光は蛍光画分と比べて微弱であったことから、埋没によって土壌腐植酸の側鎖が脱離して芳香族性が強くなっても蛍光成分に転化するするわけではないことが示唆された。一方、土壌中に含まれる植物炭化物も腐植酸の蛍光画分によく似た^<13>C-NMRスペクトルを示すことから、土壌腐植酸の蛍光成分が植物炭化物に由来する可能性についても検討した。市販木炭、実験室内で調製したススキ炭化物および野焼き跡地で採取した植物炭化物について酸化処理後に腐植酸を抽出し、上記と同様の手段で化学的性状を解析したところ、炭化物腐植酸が土壌腐植酸の蛍光画分と同じく芳香族性の非常に強い構造をとっていることが判明した。ただし、3次元蛍光スペクトルの測定から、土壌腐植酸の蛍光画分と同一波長の蛍光ピーク以外に異なった波長にも蛍光ピークが存在したため、炭化物腐植酸が土壌腐植酸の蛍光画分の給源であるとは断定できなかった。この点については、今後の検討が必要であると考えられた。
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